石綿(アスベスト)事前調査の費用は誰が負担する?発注者を動かす法的根拠とリスク

【要点まとめ】
■石綿(アスベスト)事前調査の費用は、原則として一番最初の発注者(施主・建物の所有者)が 全額負担します。
■大気汚染防止法に直接の罰則がないため、発注者が費用負担に非協力的なケースが多発しています。
■しかし、調査を怠りトラブルになれば、発注者自身が民事上の損害賠償責任を問われたり、 ISO14001の認証取り消しリスクを抱えたりする事態に直結します。
■これらの「発注者側のリスク」を的確に伝達することで、適切な費用負担を求める交渉が可能になります。
(1)費用負担の原則と「発注者」の定義
「石綿(アスベスト)事前調査の費用は発注者(施主)が負担する」というのが法律上の原則です。
大気汚染防止法では、元請業者が行う事前調査の費用について、発注者の負担と協力義務を明確に定めています。
【根拠】大気汚染防止法 第18条の15 第2項
解体等工事の発注者は、当該解体等工事の元請業者が行う前項の規定による調査に要する費用を適正に負担することその他当該調査に関し必要な措置を講ずることにより、当該調査に協力しなければならない。
ここでいう「発注者」とは、下請けに発注する元請業者ではなく、「一番最初の注文者(通常は対象建物の所有者)」を指します。
【発注者とは】大気汚染防止法 第18条の15 第1項
発注者(解体等工事の注文者で、他の者から請け負つた解体等工事の注文者以外のものをいう。)
(2)発注者が費用負担に非協力的な3つの理由
原則として費用は全て発注者が負担することになりますが、以下の理由により、発注者が事前調査の
費用負担に対して協力的でないケースも存在します。
1.直接の罰則がない: 大気汚染防止法第18条の15第2項に対する、発注者への直接的な罰則が設けられていません。
2.費用が高額になる: 調査範囲や検体数によっては、想定以上のコストがかかるケースが多くあります。
3.重要性を把握していない: 発注者側が石綿の危険性や、法令遵守の重要性を十分に理解していないことが多々あります。
(3)費用を渋る発注者が抱える「巨大なリスク」
罰則がないからといって事前調査を怠り、結果として工事中に石綿を大気中へ放出させてしまった場合、発注者企業の存続を揺るがす重大な問題に発展する恐れがあります。
【民法上のリスク(損害賠償責任)】 費用負担を拒み、適切な調査を妨げた結果として健康被害や環境汚染が生じた場合、発注者も以下の責任を免れません。
•不法行為責任(民法第709条)
•工作物責任(民法第717条)
【ISO14001の認証リスク】 発注者がISO14001を認証取得している企業の場合、法令違反や環境汚染は以下の要求事項からの逸脱(重大な不適合)とみなされます。
•著しい環境側面(環境に大きな影響を及ぼす事象)に対する対応の欠如(項番:6.1.2)
•外部委託したプロセスが適切に管理されていない(項番:8.1)
(4)まとめ:作業者の安全と企業の存続を守るために
石綿の事前調査は、何よりも下請も含めた作業者の安全・健康を守るための大事な手続きです。
事前調査の費用負担に協力的でない発注者に対しては、単に「法律の決まりだから」と伝えるだけでなく、「適切な調査を行わないことは、御社(発注者)の存続問題になりかねない」という情報を冷静に伝達することが重要です。
発注者側が抱えるリスクを理解してもらうことで、うまく協力関係を維持していただきたく存じます。
【事務所概要】 10月1日に予定しております行政書士事務所開設後は、建設業者様のあらゆる業務の支援をさせていただきたく、現在準備を進めております。現場の適正な運用と企業の皆様の利益をお守りするため、実務に即したサポートを行ってまいります。
この記事を書いた人 Wrote this article
藤原 素雄
建設業・サービス業界にて20年以上、現場監督や設備購買、コンプライアンス推進の実務を経験。購買部員として数千件に及ぶ発注実務をこなし、下請取引と法令遵守の専門家です。 ISO(9001/14001/IATF16949等)推進員や内部監査員の知見も有しており、取適法(旧下請法)や建設業法に準拠した契約書・発注書面の作成から、社内規定の構築までサポートします。建築物石綿含有建材調査者や特管産廃管理責任者など現場資格も多数保有。長年の実務経験を活かし、発注側・受注側双方が安心して取引できる環境づくりと、より良い社会の実現に貢献いたします。